Curious Cat

RAYCRISIS

Notes 2

光と化した少女は、時を経て昇華し、空気となり、風となった。

rayons de l'Air


Lavande Bleu
~ラベンダーの咲く庭~

この場所からみる宇宙はまるでラベンダー畑。
芽吹き、蕾は開かれ、そして散ってゆく。
こんなに遠く離れていても、私はあなたの息づかいを感じることができるのに、
どんなに近くにいてもあなたは私のものにはならない。たくさんの星が生まれ、消えていっても。
しかし、強い気持ちを持ち続けていれば、いつかは変わることがあるかもしれない。
だが、それは、過去も歴史を変えるということに値するほどの事なのかもしれないが。
Or, can it be said that her behavior is a crime?
~少女の行為はもう終わったのか~

少女はこの状況から身を守るためにはこうするしかない、と咄嗟に理解した。
大したことじゃない、大したことじゃないと自分に言い聞かせながら、二本の腕に渾身の力を込めた。
―少女は寡黙だった。普通に生まれ、普通の家庭環境で育った。
だが、一人で過ごすことが多かった。そして空想の世界で生きた。
自分への感覚、痛み、他人との摩擦、感触をすべて頭の中で感じていた。
欲求が生じても表面に出さず、自分以外の人間に何かを伝えることはない。
他人とのコミュニケーションを極力必要としなかった。
そのことに慣れていた少女は、他人が土足で自分の領域に踏み込んできたという局面に出会ったとき、その正当な防衛手段を知らなかった。
今となっては少女が何故あのような行動に出たのかは知る由もない。
ただ一つ言えることは、少女は大人になることを恐れ、拒否し、少女のまま自分の人生にピリオドを打ちたかったということだけだ。
The Models
~自分で撰んだ拷問~

苦しい時はいつもこう。
どうしてわざわざいつも辛い道を選ぶのか。
それは終えた時の解放感、快感がより深いから?
楽になる為には、より一層苦しい方がいい。と言うより、楽よりは苦しい方がいい。
それよりももっと苦しい事が曖昧になって私を忘れさせてくれる。
こうやって苦しみは以前よりもどんどん深くなってゆくのだろう。
それも、仕様がない。自分で撰んだのだから。
There is no sense unless everything is arranger completely
~99%じゃ駄目だ、100%じゃなきゃ駄目なんだ~

だけど99%に留めておく事も出来る。保護されるし、その方が安心だ。
それも自分でそうなりたいと願ったから、99%という数字になって表された。
1%の欠け、尋常では考えられない事だが、その人にとっては当たり前なのだ。
或いは、100%になると、普通に収まってしまうという危惧もあるからなのか。でも心の欠けは誰にでもある。
完璧という存在があるから、それを目指そうとはするのだけれど、ある時、その欠陥部分を他人で補うことを覚えて、それを愛と呼んで錯覚することもあるのだ。
Non Sentimentalisme
~女の子にはセンチメンタルなんて感情はない~

そうじゃないと前に進まないから。
男の人は停滞している。
女の人は、目をつぶっていても自分の道を真っ直ぐに歩いて行けるけど、
男の人は自分で目を開けて、さらに誰かに手を引かれないと、一歩も踏み出せない。
利用してる訳じゃないけど、そんな風に仕向けられたのだから、仕方ない。
Son Dessein
~彼女の目的~

(その時私は大量の光に包まれていた) 自分に意識というものはあるのだろうか。
暗闇の中に微かではあるが、はっきりとした、強い、一筋の光。その光の糸を手繰り寄せて、私はもう一度私になる。
私は私を見た。私である私を、本当は私でない私を。
肉体が滅びる前に次の新しい容れ物を用意することに、何をためらうことがあるというのだろう。
残存する意識を伝達する術を失うことは正しい選択とは言えない。
私にとっても、あなた、又はそれ以外の誰かにとっても。そしてここにいる私は、もう既に完成された私。
いや、完成されることは永遠にあり得ないのかもしれないけれど、私はこれからの私に運命を預けて今までの私に別れを告げる。
そして私は空気になる。時には風に。私の肉体はあなたに届くだろうか。そして意識はない。
しかし、これでようやく長い長い孤独から解放されることが出来るのというのに私は又別の孤独を選んでいる。
だが、身体が離ればなれになっている以上、所詮生物なんて皆孤独なのだ。
人は生まれたときから皆一人で、一人だけでしか生きていけないというのなら、だったら、自由に死ぬことも許されるのではないだろうか。
そうして勝ち得た自由によって人々はそれぞれの世界へ羽ばたいてゆく。死と生と言う名の翼を背負って。
こうやって幾つも乗り越えてきたものは、思い出という慰めによって記憶に残されていくのだろう。
また、一つの記憶が途切れたとしても、ある種の摩擦によって別の新たな記憶が生まれ、全てが無になるまで何度も繰り返され、その思いは神経細胞のように増殖し続けてゆくのだ。そして、その容量が堪えきれなくなったときに、それは終わる。
しかし、ここにあるこの鍵。この鍵を動かす事が出来るのは、この私でしかない。
Blood and Tide
~ふたつの液体~

何故二つあるのか?一つで充分だ。でもそれは二つある。
生まれた時から決まっていて、性別を撰んだ時からそうなのだ。
失うことも出来るのだろう。
境界線がなくなってしまってもいいと言うのなら。
―あの扉の向こうには何があるのだろう。
僕にとっては未知の世界であることには違いない。
一日一度、彼女は僕を残して扉の向こうへ消えてしまう。時には笑顔で、時のは申し訳なさそうに。
僕は、どうしても扉の向こうが知りたくて、彼女がドアを開けた一瞬の隙を見て、思い切って飛び出してみた。
今までに嗅いだことのない匂いとどこまでも続くコンクリート、増幅された騒音。人々のざわめき。
僕は駆け足のまま段差のある石の壁の一番低くなっているところまで行った。
そこは景色らしいものは何もなく、薄暗くて、湿った匂いがした。
僕は楽しいんだか、楽しくないんだかよく分からない心境で、しばらくそこにうずくまってみた。
そんな時、足音が響いて、嗅ぎ慣れた匂いがやってきた。彼女だ。
僕は何故だか、本当に何故だか分からなかったんだけど、彼女の顔を見て思わず逃げ出してしまったんだ。
しかも、人間が通れない鉄の壁の隙間から。一瞬の沈黙の後、彼女が足早に去ってゆく音がした。
足音が消えてしまったこの場所に残った僕は一人考えた。ここはどこなんだ。
何でこんな所にいるのだろう。ここに何があるっていうんだ。
そう思い始めると、さっき飛び出した時のスリルと期待は段々薄れてきて、彼女のいないこの空間が何だかとてもつまらないものに感じてきた。
―しばらくすると、さっきとは違う方向から彼女はやって来た。
そして柵の中にいる僕を見つけた。僕も彼女を見た。その時、彼女の目の中がたくさんの涙で一杯になっていた。
僕は「どうしたの?」って言いながら彼女に近づいた。ああ、彼女の匂いだ。
すると、彼女の目からもっとたくさんの涙がどんどん溢れ出して、アスファルトの上に小さな丸い染みをいくつも作った。僕のおでこの上にも。
そして僕は彼女に掴まれてコートの胸に押し込まれ、彼女は、僕が身動き出来ないくらいに両腕をきつく閉じた。
降りしきる雨の中、僕達はいつもの場所へと帰っていった。
僕にとっての初めての冒険はこんな風にあっけなく幕を閉じてしまった訳だ。
空から落ちてくる灰色の不思議な水の粒は、ちょっとだけ冷たかったけど、彼女の腕の中はとても暖かかったので、まぁヨシと言う事にしておこう。
いずれにしても、僕は彼女と一緒にいるのがとっても好きで、彼女の方もきっとそう思ってる。
Formless living bodies
~司教は言った「それは奇跡じゃない」~

棺を開けた時、そこにいるべき娘は消えていた。
だが、それは消えたのではなく人為的に消されたのだ。
全ての奇跡、又は奇跡と感じることは実際には計算され、起こるべくして起こった出来事。
奇跡は操作を必要とするものなのだ。ただ待つだけではなにも起こらない。
全ての行動が、結果を招く。
Root of all evil
~聖母マリアよ、二人を何故別々に?~

最初から分かっていれば間違いは起こさない。
しかし迷うべくして生まれたのか。
だが、決まっていれば、生まれてくる必要もない。
こうして考えると、人生もまるでゲームの様なものなのかも知れない。
ゴールへのチケットを手に入れて、それを探す為に生き続ける。
様々な局面に出会い、解決し、目的地へと向かう。
人生の長さの感覚なんて皆それぞれ同じで、迷うことなく目的地に達した人には、
又、人よりも早く、新たな課題を与えられるのだろう。
There are no nails at my tiptoe
~天使の爪痕~

いくら傷ついても、もうこれ以上は傷つかないだろう、と思った瞬間に、自分の傷がとても安っぽい事に気づいた。
ただ、私が傍らにいた事を、私が生きていた事を少しでも心に留めておいて欲しい。
だけど、強制もしない。
確かに風も通り過ぎた。
天使は駆け抜けた。その痕跡だけ。
けれども、どんなに行動を起こしても全ては幻なのだ。だからといって、何もしなければ良かったとは思わない。
ただ幻なだけで。
Love is not enough
~愛がたりない~

それは意外にも相手に伝わる。
自分が身動き取れなくなってきたと感じた時に初めて、相手の愛ばかりが重なり、自分の愛が足りないと言う事に気づく。
相手の愛を負担に感じ始めたら、それ以上に相手を愛すれば楽に片付くのだ。
だけど、足りないくらいが丁度いい。
Vit-Symty
~生命の風が吹く場所~

星が巡るように、月日は巡り、又、生命も巡る。
まっさらになった大地に雨が降り、川となり、干上がり、湿り、繰り返してそれぞれの魂が降臨する。
そこに、生命の息が吹き込まれる。
All is shut down
~童話の消えた森~

私は森がとても気に入っていた。
その場所は、私がいつもいる場所。
何かを考えて、光を生み出し、あらゆる方向に向けて放つ。
森に来ると私は自分自身を取り戻すことが出来る。
完全に一人になれる場所だった。
しかし、そこはいつの間にか入り込んできた無秩序によって荒らされてしまった。
時にはやさしく、時には暴力的に。
ヘンゼルとグレーテルが、目印にしたパンくずを鳥に食べられてしまった様に、
私もまた森への道標を失ってしまった。
もう森に近づくことは出来ない。
童話の消えてしまった森は、私の愛した森ではなくなったのだ。
アレンジCD「rayons de l'Air」のブックレットに載っているものです。
曲ごとに文章がついていて(途中に無題のストーリーも)、最後に“Ray of the Air”と題してTAMAYOさんの後記らしき文章があります。
Notes1】と似たようなことが書かれて(というかさらに詳しくなって)いるものもあります。
曲名には一部誤字と思われるものがあるのですが、Ray'z PREMIUM BOXで修正された箇所については、上記も修正してあります。詳しくは【Music1】の補足をご覧ください。
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